30話 選ばれし者
楽しかった夏休みも終わり、新学期。教室ではなく、体育館に集められた。
「よー、宿題終わった?」
「葵のことや、どうせ完璧なんやろ」
「終わらせんの当たり前だろ…まさか終わってないの?」
「えへへ、終わってねぇ」
「笑い事じゃないだろ…」
急に声をかけられるのももう慣れた。1人でいるといつも後ろから脅かしてくる。最近では脅かしに来るタイミングまでわかるようになってきた。
体育館に着き、指定されていた場所に座る。すると、滅多に人前にでない理事長が出てきた。
『えー、皆さん、おはようございます。夏休みは楽しかったですか?』
珍しい理事長の登場に驚きつつも、下の学年のほうから、楽しかった!という声が上がる。すると理事長はさっきより笑顔になった。
『今日は、悪魔との適性があった者の発表日だ。残念だが、選ばれなかった者は契約の解消、記憶の消去をさせてもらうよ』
そう言うと体育館中がざわめいた。始めから分かっていた事ではあるが、やはり現実を突き付けられるのは耐え難い。2人とは席が離れてしまって話せないが、どうか3人で選ばれたい。
『それでは発表するよ。呼ばれた者は前まで出ておいで』
『1年。刈萱撓』
撓の名が呼ばれた。才能マンであるあいつが呼ばれないはずはなかったから、自分の事のようにホッとする。
『2年。白金零』
白金は壇上に上がると、恥ずかしいのか顔を真っ赤にしている。肌が白いからとても目立っている。
『3年。逢歌』
信じられない、という顔で壇上に上がる。普段騒がしいあいつが固まってしまっているのか面白かった。
『弾丸入木或賀』
選ばれて当然だ、とでも言いたそうな顔をしている。俺と目が合ったと思うとニカッと歯を見せて笑い、ピースサインをしてきた。
『4年。蒼天夜珠と蒼天星妃』
2人はいつも通り真顔で上がってきたが、蒼天弟は心なしか嬉しそうだ。…触覚が動いている…。
『花園花蓮』
初めて聞く名前だと思い見てみようとするが遠すぎて顔がわからない。しかし、あの髪色は勉強会の後に見た“カノジョ”だった。
『5年。河合紅樹』
おめでとう!と、心の中で盛大な拍手をした。人見知りの紅樹が、大人数の前に出ても平気なのか心配したが、案の定手と足が一緒に動いている。
『鎬春靄』
1度しか会った事がないため、実力は計り知れないが選ばれるくらいなのだからきっと強いのだろう。何を考えているのか、ニヤニヤしている。
『それでは最後に6年。藤蔭紫』
よほど嬉しかったのか、ガタッと音を立てて勢いよく立ち上がった。合宿のときから毎日義足を付けているようだが、いまだ慣れない様で今日もぎこちない歩き方をしながら壇上に上がった。
『閼伽磐茅秋』
紅樹とは正反対に、緊張することなくとびっきりの笑顔でガッツポーズをしている。
『それでは最後の1人です』
『我が学園の生徒会長、白須葵!』
キャーーー!という歓声を浴びる。こんなに光栄なことはないし、何より選ばれてとても嬉しい。俺は、緊張しながらも笑顔で悪魔と共存する舞台に上がった。
『えー、それでは会長から一言』
そんなこと予想しているはずもなく、驚いて理事長の方を見るとウィンクをされた。やれって言うことなんだろうけど、男からウィンクをされても嬉しくなんてない…。渋々と真ん中に移動して、マイクを受け取る。
『えー…、こんな僕ですが、選んで下さって光栄です。今回選ばれなかった人も、決して悔やまないでください。俺達はこの12人で強くなりますが、誰だって強くなることはできます。だから、皆さんも、強くなってください…。えっと、終わり…です』
自分の立ち位置に戻ろうとすると、これも言って、と紙を渡された。
『…選ばれなかった皆さんはこれから記憶の消去と悪魔との解約を行いますので、体育館にいたままで結構です。…との事です』
立ち位置に戻り、礼をして壇上から降りた。そして、理事長と共に適合者専用の教室へと向かった。