29話 強化合宿Ⅱ
「今日から悪魔のコントロールの訓練をする」
配られた日程表通りの時間ぴったりに向かうと既に皆集まっていた。俺が最後だったようで、適当に茅秋と紫の近くに座ると直ぐに説明が始まった。
「遅かったやん」
「どうせ、朝苦手で起きれなかったとかだろぉ?」
「…ただでさえ皆に見られて恥ずかしかったんだからそれ以上言うな…」
「実技試験の時に憑依できなかったやつも流石にもう出来るだろう。まずは憑依してからだ」
先生の合図で皆が憑依を始める。憑依した姿を見ると、“憑依”には2種類あるように見える。
マルルスの様な武器に変化する悪魔。オルルスの様に主の一部となる悪魔。そのチカラと主に合わせて、使いやすいように変化するようだ。ただ、主の一部になる者は少なく、武器になる者の方が多いようだ。
「白須、前来い」
先生に呼ばれて前まで行く。
「これからお前らの悪魔に、自身のチカラを最大出力で出してもらう。今日と明日でそれに耐えきれるように悪魔と協力してトレーニングしろ。オルルス、頼めるか?」
『しょうがないですね。主、失礼致します…ねッ!!』
そう言うと俺のグローブとなっていたオルルスは勢いよく電撃を放った。
「うわああああああああああ!」
あまりの激痛に耐えられず、叫ぶ。その声は体育館に木霊した。
誰もが俺は死んだと思った瞬間、俺はかすり傷1つ無くそこに立っていた。おそらく、マルルスのおかげで。
『そうだよ~ぼくのお・か・げ♪感謝してよね』
その口調にイラつきつつもありがとう、と誰にも聞こえないよう、小さな声でお礼をしておいた。
あんな電撃を喰らっておいてなぜ倒れていないのか、不思議でたまらないクラスがざわめく。
「白須の悪魔は2匹いてな。“カミナリ”と“治癒”だ」
この俺の治り方とマルルスのチカラを聞いて、俺が“不死身の毒龍”と呼ばれている理由を悟ったようだ。悪魔が2匹いる事の違和感は隠せていないようだが。
「“治癒”は悪魔が自らやった事だが…さっきも言ったがお前らにはチカラの最大出力をコントロールできるようにしてもらう。自分の悪魔と相談しながらな」
説明が終わると、開始!と言って見学席へ戻ってしまった。
憑依できない者は流石にいないものの、悪魔との性格的相性が悪い者もいるようだ。マルルスとオルルスはいい子でよかった…。茅秋と紫をチラッと見ると、2人とも苦労しているようだった。あの生意気な悪魔達に振り回されているようだ。
俺は2人に問いかけた。
「なぁ、どうしたら強くなれる?」
『それは主次第、としか言いようがございませんが…』
『兄ちゃん、主はそういう事を聞いてる訳じゃないよ。主、何で強くなりたい?』
「…撓を…守りたいから。命を懸けてでも。それだけだよ」
『…それでしたら、守る強さを教えましょう。どんな状況であっても、守れる様な強さを』
それから2日間、みっちりとマルルスとオルルスによる強化プログラムがはじまった。“カミナリ”はただ放出するだけでは意味がない。自在に操れるようにしなければ。
実技試験でやった、刀にカミナリを纏わせるのはいい案だそうだ。自分の得意とする武器に一手間加える。それだけで戦闘能力は格段に上がる。その刀をメイン武器とする。そして、グローブから放出されるカミナリをサブ武器とする。
2日目はカミナリの出力の調整。縦横無尽に動くそれを完璧にコントロールするのは無理だが、ある程度はできる。これができるようになってから、次のステップに入った。
3日目は1日目同様の体力作り。マルルスの治癒はとても体力を消費する。攻撃を受けないのが1番だが、全く受けないというのには無理がある。オルルスのカミナリの攻撃を避け、避ける訓練をしながら体力を上げていく。
2日間、身体と精神共に悲鳴を上げながら強化プログラムを行った。
マルルスとオルルスはとてもスパルタだったが、そのおかげでトーナメント制で行ったミニ戦闘試験はクラス1位だった。