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25話 検査

    ジリリッと、巨大な音が部屋に響く。俺は眠い目を擦り、目覚ましを止めた。現在の時刻は11:00。布団から気だるげに起き上がり、洗面台に立つ。顔を洗い、服を着替え、朝食兼昼食である食事をとる。

    それから部屋を出る時間までまだあったので、部屋の片付けをする事にした。

    テストが終わってから何日も経っているはずなのに、まだ片付けが終わっていない。床にはプリントが飛び散り、洗濯物が溜まっている。

    とりあえずプリントの整理をした後に洗い物を洗濯機にぶち込み、朝食に使った食器を洗った。

    そうしているうちに部屋を出る時間はあっという間にやってきた。

    俺は戸締りに気を付け、部屋を出た。

 

    昨日1度行ったこともあって、迷わずに着くことが出来た。時間よりも早くついてしまったが昨日と同じ男性が待っていた。そして、昨日と同様に所長室まで向かった。

 

    「御足労かけたね。椅子に掛けてくれたまえ」

    昨日と違ったのは、所長の目の前に椅子が1つ置かれていたこと。失礼します、と言って座った。

    「それでは、率直に言わせてもらうね。」

    そう言って所長は検査結果を話し始めた。

 

    まず、普通の病院でやる通常の検査を行った。しかし、白須君の身体からはなにも異常が発見されなかった。そこで私達は君の色々な場所のデータをとった。それでも、データ上何も問題はなかった。

    そこで、我々は心臓の動きを静止画ではなく動画として記録した。そしてそれをとても遅いスピードで再生した。

    すると、驚くべき結果が分かった。君は何度も死んでいるんだ。どういうことかと言うと…やはり人体に悪魔を2匹飼うのは負担がかかりすぎてしまう。しかし、君の1匹目の悪魔は治癒だったね?そのチカラで死んでは蘇生し、というのをデータに残らないくらい高速で繰り返していたんだ。

    君は、悪魔が原因で死んでしまうところを悪魔に生かされているんだ。

 

    所長はここまで話し終えると、一息ついた。

    俺は驚きを隠せなかった。いや、それは驚きではない。恐怖だ。

    自分が1日に何百回、何万回、いや、それ以上死んでは生き返っている?

    いきなりそんなことを言われて誰が信じるだろうか。でも、きっと信じるしかないのだろう。

    だって、悪魔なんて非科学的なものが存在するんだ。今は何を疑っても疑いきれない。

    「…きっと、驚きで言葉も出ないだろうね。悪いんだが、君の悪魔に会わせてくれないか?」

    俺は恐怖に震える手を抑え、胸に当てた。言われた通りに2人を呼び出した。

    「も~お昼寝してたのにぃ」

    「主の前でだらしない格好をするのはやめなさい」

    張り詰めた空気をぶち破りこの場に似つかわしくない会話をする。

    マルルスは何をしていたのかボサボサの髪のままタブレット端末を持っている。オルルスは相変わらずシワ1つないスーツを着ている。

    「申し訳ありません、主。愚弟には私から言っておきますので…」

    そう言って深々と頭を下げた。

    「いや、俺は大丈夫だけど…」

    そう言うとオルルスは顔を上げた。そしていつもと景色が違うのにやっと気付いたのか、周りを見渡している。そして、所長を見たかと思うと、マホロバ様!と言って頭を下げた。

    「オルルス、君だったのか。そしたらもう1匹はマルルスかね?」

    「その通りです。いつも愚弟がご迷惑をおかけして…」

    そう言うとオルルスは急いでマルルスの服装を整え、髪を結った。

    俺はまさか所長と2人が面識あるとは思わなかった。お互い、人間と悪魔それぞれの政府に属しているらしいし、面識があってもおかしくはないだろうが…。それから、所長と悪魔の会話が始まってしまった。

 

    「禁忌を犯してるっていうのはわかってる?」

    「もちろん、承知の上でございます」

    「1人1匹って言ってきたのはそっち側じゃないのかね」

    「それはそうなのですが、まさか主が既に契約しているとは知らず…」

    「もー、マホっちゃんはオカタイんだよ~。別に良くない?僕が許してるんだし」

    「マルルス!何度言ったらその口の聞き方…」

    「兄ちゃんちょっと黙ってて」

    いつもヘラヘラと笑っているマルルスの初めて見る氷のように冷たい目だった。オルルスはマルルスに何かされたのか、喋ろうとしても喋れなかった。

 

    「他に人がいるけど、こうやって2人で話すのは久しぶりだねぇ」

    「で、どういう了見なんだい」

    「最近つまんなくてさ~。僕達って、何世紀も生きてるでしょう?だから、ヒトの事なんて昔から知ってるわけ。ヒトは同じ過ちを何度も何度も繰り返しててつまらないよ!だから楽しくなるように、運命にすこぉ~し手を加えただけだよぉ?そしたらこうなったんだぁ」

    「まぁ、君が言う事はこちらは承諾をするしか無いんだけどね」

    「じゃあ問題なーし!」

    そういうとマルルスは俺の方に振り向いた。そして、いつもの様に暖かい目で言った。

    「帰ろ、主♪」

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