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24話 相棒

   それからと言うもの、俺達の噂は広まった。

    “毒龍とスネークが手を組んだ”

    “あいつらに勝てるわけがない”

    そのような噂が広まり、ほかの殺し屋達より一目置かれ、仕事は前よりも多くなった。それは心地のいいものだった。

 

    それから何年か経ったある日のことだった。最近仕事の依頼にも増えてきている、“ゴミ”の殲滅。“ゴミ”はどうやら俺達の知らない敵国が遣わしているようで、その敵国との戦争計画が政府から発表された。貴族の奴らを抜かし、戸籍登録をされていない者や、俺達のようにスラムで暮らしている者は、強制的に参加させられる事になった。

    その事について撓と話したかったが、ありがたい事に仕事量が多くて手に負えず、2人で別行動をしていた。ここ2、3ヵ月は顔を合わせていない。

    どうしようかと考えていると、聞き慣れた脳天気な声が聞こえてきた。

    「ああ~やっと終わったぁ。ただいま~」

    「ああ、おかえり。帰ってきたところで悪いんだけど…」

    「もしかして戦争のこと?僕も話したくて早く仕事終わらせてきたよ」

    そう言っている撓を見ると、珍しく鮮血をかぶっていた。

    「そんな血だらけ、どうした」

    「ライフルの弾無くなっちゃってさー。拳銃だと至近距離になっちゃうんだよね。口ん中まで入ってて気持ち悪い」

     そう言って不快そうな顔をする。撓の為に着替えと蒸しタオルを持ってきてやる事にした。

 

    「それでさ、戦争のことなんだけど」

    蒸しタオルで顔を拭きながら喋っているため、声がくぐもっている。はぁー、と、気持ち良さそうな顔をしてタオルから顔を上げる。

    「僕達、いくら強いとは言ってもさ、まだ子供なわけじゃん?」

    「普通に考えてありえない話だよな。でも、断ったら死刑だろ?狂ってやがる」

    「ほんとそう思う!しかも僕なんて銃器だし…弾無くなったらおわるよ?」

    「でも、お前刀使えたよな?」

    「基本的なところはね。殺しには生かせるかどうかわかんないなぁ」

    そう言って2人とも黙り込む。しばらくして撓が口を開いた。

    「まぁ、悩んだって参加せざるを得ないんだから、しょうがないよね。身体鍛えたりしておこうよ」

    「そうだな。俺はそろそろ仕事だから。またな」

    「おー、頑張れー」

    俺は普段通りフード付きの黒い布を身に纏い、刀を手に取った。

 

 

 

 

 

    あの後、また数ヶ月間会っていなかった撓と、久しぶりに会ったと思ったらその日のうちに撓は死んだ。

    そんな思い出したくもない記憶を蘇らせ、涙がこぼれ落ちた。今は会おうと思えばいつでも会えるのに、なんでこんなに悲しいのだろうか。

    もう終わったはずなのに、また会えるはずなのに。

    涙は止まらなかった。

 

    今は過去に浸っている場合ではない。俺は涙を拭いて、動かなかった足を無理やり動かした。

 

 

 

    「ここか…」

    目的地の廃病院は、今にも崩れ落ちそうで、既に崩れ落ちた鉄骨や、ひび割れた壁などがそのままになっている。少し触れるだけで壊れてしまいそうなその建物に恐る恐る入る。

    するとそこには白衣を着た1人の男性が立っていた。彼は深々と頭を下げて言った。

    「お待ちしておりました。白須様ですね」

    「はい、そうですけど…」

    「大変申し訳ありませんが、ここから先は機密事項となっておりまして、目隠しの着用をお願い致します」

    そう言って黒いアイマスクを渡された。もちろん断る訳にはいかないので、渡されたアイマスクを付けた。

    「ありがとうございます。ご案内致しますので、お手を失礼します」

    彼はそう言うと俺の手を取って歩き出した。視界が真っ暗な中で、知らない人に道を示されるのは怖い。一体どんな構造になっているのか、部屋の中に出たり入ったりし、沢山の角を曲がった。

 

    「着きましたのでマスクを撮っていただいて大丈夫ですよ」

    そう言われ、マスクを取った。眼下に広がるのは先程の今にも崩壊しそうな壁などでなく、真っ白な漆喰で固められた壁だった。目の前には社長室、と書かれた扉がある。

    彼は俺がマスクを撮ったのを確認すると、扉を開けた。

 

    部屋に無数に置かれているショーケースには沢山の表彰状やトロフィーが陳列している。このご時世に何処から手に入れたのか、高そうな陶器や絵画も飾られている。

    そして、部屋の奥には全身黒いスーツに身を包み、小綺麗に髭を整えた男が座っている。

    「やぁ、遠い所来てくれてありがとう。そんな遠くにいないで、近くまでおいで」

    俺はその言葉の通りに男の前まで行く。

    「やぁ、初めまして。私はここの所長を任せられている。えー、早速本題に入らせてもらうが…。君の事は調べさせてもらったよ。悪魔が2匹いるんだって?そんなこと、今まで無かったものでね。率直に言わせてもらうと、検査させてほしいんだよね」

    ここまで早口で勢いよく喋り、大丈夫かな?と、問いかけてくる。

    政府のお偉いさん、とだけ聞いていたから、どんな怖そうな人がいるのかと思いきや、優しそうな人だ。

    大丈夫です、と言うと所長自らが案内してくれた。

 

    所長室から5分位は先程と同じ様にアイマスクを付けて歩いた。所長室から近いのか、アイマスクを外して見えた景色はまるで病院の診察室そのものだった

    俺はそこで心電図だったりCTだったり、普通の病院でやるような検査をいくつもした。

    検査が終わる頃には日が暮れてしまっていた。

 

    「白須君、今日は助かったよ。確か、明日も休みだったよね?悪いんだが、明日の13:00にまた来てくれないか?」

    「わかりました」

    「明日は悪魔も見せておくれよ」

    そう言うと行きと同じようにアイマスクが渡された。俺はぺこりとお辞儀をして建物を出た。

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