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23話 2人の少年

    昔はよくここから脱出を企んでいたなと、思い出に浸っている。
    目の前にあるのは、絶対安全の学院の領地と何があるかわからない“外”の狭間に位置する出入口だ。本当のことを言えば何処からでも出入り可能な為、建前上の出入口だ。
    あれだけ出るのに苦労をしたのに、こんなバッヂ1つで出れるのかと、半信半疑になりながらも“外”に足を踏み入れた。



    その世界は6年前と何一つ変わっていなかった。崩壊した建物は放置され、誰にも手入れされることのなかった木々が生い茂っている。終戦の日に見た景色と全く同じ景色からは、生命の存在を感じさせなかった。
    渡された紙に記された通りに道を歩んで行く。目的地は廃病院の地下。本当にこんな場所で調べられるのかと思うとあまり気持ちのいいものではなかった。
    行く途中の道には、懐かしい場所も沢山あった。懐かしいと言っても、いい思い出など何一つない。
    しかし、俺は見つけてしまった。

    撓と初めて出会ったその場所を。






    「ねーねー、君が毒龍?」
    そいつは気配を感じさせず、俺の後ろから声をかけてきた。驚いて勢いよく振り向き、刀を構える。
    「やだなぁ、そんな警戒しないでよ」
    「……何の用だ」
    「君と友達になりたくて!ずっと探してたんだよぉ?」
    「友情など、不要」
    馴れ馴れしく話しかけてきたそいつを置いて俺はその場を去った。
    今まで誰ともつるまず、一匹狼でやってきた。俺の前に出る奴はどんな奴だろうと殺してきた。依頼された仕事はミス一つなくこなす。
    そんな失敗の無い俺を、いつしか皆避けていくようになった。近付いて来る奴と言えば依頼をしてくる奴らのみになってしまった。
    そんな状態が1年ほど続いていたせいか、感覚が鈍ってしまったのだろうか。俺はいつも生活している、家とも呼べない拠点に帰ると、精神統一をはじめた。

    それから俺はいつも通りの毎日を過ごした。しかし、あれ以来奴は来ることがなかった。念のため、拠点は毎日変えるようにしている。
    そんなある日の仕事中、奴は現れた。
    「お仕事中~?」
    「対象に気付かれる。黙れ」
    「はーい」
    何をしに来たのか、俺の言う通りに側でじっと座っている。
    そして、対象の男が後ろを振り向いた瞬間、俺は飛び出して斬った。

    いや、斬ろうとした。

    俺が斬ろうと構えたその時、俺の髪を掠めて弾丸が放たれた。そして、刃を振り下ろす数秒前に、男の頭から真っ赤な鮮血が吹き出した。血は容赦なく俺に降りかかる。
    倒れた男の死亡を確認し、奴の方へ振り向く。
    「なんで撃った」
    「駄目だった?」
    「俺の仕事だ。報酬が入らない」
    「でも、僕が撃たなかったら毒龍君は絞め殺されてたかもよ?」
    後ろを向いていたはずの男は仰向けに倒れている。俺の気配に気付いたのかどうかは定かではないが、こちら側を向いていたのは確かだ。こいつが撃たなければ俺はどうなっていたか分からない。男はガタイがいい。こいつの言う通り、絞め殺されていたかもしれない。
    「お前の言う通りかもしれないな。だが、こういう事は今回限りにしてくれ。俺に関わるな」
    「なんでそんな1人で突っ走ろうとするの?」
    「…理由なんてない。生きて行くには1人で充分だ」
    「そんなつまんないこと言わないでよ~。人生楽しく生きなきゃ、そんだよ?」
    「こんな人生、産まれたこと自体が損だ。もう、お願いだから1人にしてくれ」
    そう言って俺は背を向け、早足で拠点へ向かった。奴は着いてきていなかった。
    「僕、巷ではスネークって呼ばれてるんだ!毒龍と蛇、君の方が強いかもしれないけど、いつか強くなってまた会いに来るね!」
    そんな声が聞こえたが、俺は無視して去っていった。



    あの日から数年後、ある噂を耳にした。この頃は情報屋から情報をもらって仕事をするようになっている。その時に聞いた話だ。
    最近、スネークって呼ばれてる2丁拳銃使いが俺達の仕事を奪ってる。
    そういう噂だった。確かに、ここ最近俺達への依頼は減ってきている。今の時代、対象まで接近して殺さなければならない長物はあまり好まれなくなってきている。それに対し、遠い所からでも狙える銃器の類が復旧している。
    最初は気にも留めていなかったが、殺し屋達の間で、スネークの存在は大きくなってきている。でも、俺には関係なかった。昔から仕事をくれているキゾクサマが今でも仕事をくれている。だから、そんなに収入は減っていなかった。俺は、今日の分の仕事を終え、拠点に戻った。

    「やぁ、久しぶりだね~」
    「なんっ…でお前がいるんだ」
    俺の拠点に座って優雅に茶を飲んでいるのは、あの日と同じ笑顔のスネークだった。
    「僕、強くなったでしょう?」
    「…確かにお前の噂はよく聞くようになった。だけど、なんで俺に付き纏うんだ?」
    「君の相棒になりたいからさ」
    「だから、俺は1人で十分だって」
    「あの時、僕が助けなかったらどうなってたか分からないのに。補佐が必要でしょ?」
    確かに、あの後も何回かミスをした。でも、その度に俺は冷静な判断をして危機を免れている。
    「ねぇ、僕と手を組もうよ。もっと強くなって、もっと有名になって、このくだらない世界を終わらせようよ!」
    まるで無邪気な子供のように笑顔で叫ぶ。
    世界を終わらすなんて夢物語、そんな確率の低い提案を受け入れられるわけがないだろう。本当になにを考えているのか分からない。
    「僕達はまだ若いんだ。これから先沢山時間がある。その時間を使って、世界を終わらすんだ!どう?毒龍君だってこの世界の事くだらないと思ってるでしょ?」
    嬉しそうに語る彼の目は生きている意味も分からない俺には眩しすぎた。今回断っても彼はこれから先付き纏ってくるだろう。何度も勧誘されるよりも承諾した方が早いのは分かってた。彼もそのつもりで言ってきてるのだろう。
    「……わかった。相棒になればいいんだろ」
    「本当!?嘘じゃないよね!」
    「本当だ。次言わせたらならないからな」
    「やった!ありがとう毒龍君!」
    「その毒龍っての、やめろ。その名前は嫌いなんだ」
    「じゃあ、なんて呼べばいいのさ」
    「白須葵。これが俺の名前」
    「綺麗な名前だね!僕の名前は刈萱撓。よろしくねぇ~」
    そう言うと同時に刈萱は俺に抱きついてきた。
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