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22話 呼び出し
「えー、一学期も残すところ終業式だけ。終業式は3日後に行う。それまでハメを外さないように。解散」
担任がそう言うと静かだったクラスが一気に騒がしくなった。終わったー!だとか、夏休みだー!だとかの声が聞こえてくる。俺も茅秋と紫と帰ろうと声をかけようとしたその時、担任に声をかけられた。
「白須、ちょっといいか」
「あ、はい。大丈夫ですけど…」
何の用事か分からないまま、ちょっと付いてきてくれ、言われるがままに付いて行った場所は、なんと会議室だった。生徒が入っていいものなのかと思いつつ、失礼しますと言ってドアを開ける。ドアを閉めようとすると、1人の男性が代わりに閉めてくれた。担任は入ることが出来なかった為、1人で入った。
そこには机と椅子がたくさん並んだテレビで見るような会議室そのものだった。広い部屋に置かれた長い机の周りには等間隔で椅子が置かれている。
奥に座っている理事長が口を開いた。
「まぁ、そんな固くならずに座ってくれ」
ありがとうございます、と言うと先程の男性が椅子を引いてくれた。彼にもお礼を言って席に着いた。
目の前にいる理事長は、初めて会った時と雰囲気は全く違った。とても真面目な顔をして俺を見つめてくる。
「早速本題に入るが…君は悪魔を2匹従えているね?それに間違いはないかい?」
突然の質問に戸惑いながらも返答する。
「はい、間違いないです」
「そうか…」
そう言うと理事長は黙り込んだ。1分ほど考えた後、理事長の後ろに立っている別の男性に声をかけた。すると今度はその男性が話し始めた。
「理事長に代わりまして、私がご説明させていただきます。本当でしたら如何なる場合でも口外してはいけない内容なのですが、事態が事態です。今から話す事は決して口外しないよう、お願い致します」
ここまで一気に話すと、ゴホン、と咳払いをした。
「私共が管理しておりますこの学院は、悪魔と同盟を組んでおります。その時に、悪魔との契約において厳守すべきこととして取り上げられたもののうちの一つに、ヒト1人につき悪魔は1匹というものがありました。本来ヒトの命を食べて生き長らえている悪魔ですが、生徒の命を奪う事など許されざることです。そのため、悪魔はヒトが体内で作り出しているエネルギーを食べて生きております。しかし、悪魔が2匹となると、作り出されるエネルギー量は一定量のまま、消費される量は倍に増えてしまいます。そのため、ヒト1人につき1匹というルールが作られました」
「ありがとう」
男性が一通り話し終えると、理事長が口を挟んだ。男性は軽く礼をするとまた理事長の後ろに戻って喋らなくなった。
「今の説明でわかったかね?」
「…つまり俺はルールを破っていて、いつ死ぬかもわからない状態。それを対処しなければいけない…ってことですか?」
「直ぐに分かってくれて助かるよ。実はだね、この前の実技試験で君が2匹従えている事が政府にバレてしまって…。この学院は政府が管理してるからね。もっと早く言うべきだったんだが…。政府が君の事を調べたいと言っているんだ。もちろん、嫌なら言ってくれて構わない」
「……もし、嫌だと言ったらどうなりますか」
「もしかしたら契約を解除する事になるかもしれないね」
「っ…。それは嫌です」
「私達も何をするのか、聞かされていない。それでも行くかね?」
「はい、お願いします」
そう言うと失礼、と言って先程の男性から携帯を受け取り、部屋の隅で電話をし始めた。遠すぎて何を言っているのか分からない。表情も眉一つ動かさない。
2、3分程話すと元の席に戻ってきた。
「待たせたね。明日、時間はあるかい?」
「はい、特に用事はないので…」
「じゃあ、すまないがこの紙に書いてある所まで行ってもらえるか?この場所は学院の領地外だが、このバッヂを付けていれば出入り可能だ。外は何があるか私達にもわからない。悪魔の使用を許可するから、怪我をしないで帰っておいで」
会議室に入ってきた時の様な怖い顔ではなく、いつもの優しい顔に戻っていた。そして、そう言って地図とバッヂを渡された。久しぶりの外でワクワクしている反面、何が起こるのか分からない恐怖もあった。
俺はありがとうございました、と言って会議室から出た。
部屋に戻るまで、とても静かな廊下を通った。各部屋のプーレトが外出中になっているものが多かった。皆打ち上げに遊びに行っているのだろう。
携帯を開くと、茅秋と紫からLINEがたくさん入っていた。
『担任に連れてかれてたけど、何かあった?』
『ここのファミレスで打ち上げしてるから終わったら来てな!URL』
俺は、『行くところができた。ごめん』と送信した所で丁度部屋についた。
真っ暗な部屋に明かりをともす。昨日までこの部屋で皆でいたのだなと思うと、いつも以上に部屋が広く感じた。俺はジャージに着替え、先程もらった紙とバッヂ、携帯だけ持って紙に書かれた場所に向かった。
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