top of page

21話 期末テスト

    期末テストまで残り1週間をきった。テスト勉強で静かであるはずの自室はとても賑わっていた。
    「なー、もうわっかんねぇよ」
    「せやから、ここの6がこっちにいってx=3になるんやって!何回説明したらええねん」
    「茅秋~さっさと理解してくれないと次に進まねぇ…」
    自室にいるのはいつもの3人組。茅秋は、次に赤点を取ったら悪魔との契約を破棄すると言われたらしく、珍しく真面目に勉強をしている。ただ、根本的なところが分かって無いらしく、手のつけようがなかった。
    「もー、この際理屈なんてどーでもええねん。もう、やり方だけ覚えてしまえ!」
    「うっ…それムズくねぇ…?頑張ろ…」
    「紫の教え方雑なんじゃない?根本的なところがわかってないからそこからやっていかないと…」
    こんな調子でずっとやっていくにも体力と精神の戦いだった。どこまでなら分かるのか遡り、わからない所にはとことん付き合った。
    それから俺達は自分の勉強をすることが出来ないまま日を越していた。
    いくら寮内であれど門限を過ぎたら部屋の外に出れない。管理人に見つかってこっぴどく怒られたことがある。2人は俺の部屋に泊まることになった。客人用の布団なんて無かったが、仮にも生徒会長である俺の部屋はひとりで過ごすには勿体ないくらいの広さだ。俺は紫にベッドを譲り、無駄に大きいソファーで寝ることにした。
    俺達が寝た後も茅秋はずっと勉強していたらしく、俺が目を覚ました時にはペンを握ったまま寝落ちしていた。風邪をひかないよう布団をかけ、俺はまた眠りについた。
    そんな生活がテストの前日まで続いた。テストが始まるまでひたすら茅秋に教えていた。少しくらい自分の勉強ができるかと思いきやそんな考えは甘く、自分の時間は少しも取れなかった。なんとか普段の授業の休み時間で補った。

    そしてテスト当日。この学校の教科は複雑に分かれていない分、難易度が高い。国語、古典、数学、物理化学、生物地学、歴史、地理、公民、英語の9教科を4日間で行う。1日の教科が少ない分、まだ救いの道はあった。これで1日目4時間ほどやっていたら点を落とすどころではなくなるだろう。
    テストが終われば自室へ戻って勉強できるだろうと安心していたが、神は俺に優しくないようだ。
    「あ"ー葵~。今日の手応えあったぞ!なぁ、悪いんだけど、今日も行っていいか?」
    「…なるべく自力でやるんだぞ」
    「まじ!?さんきゅ~」
    もちろんダメと言えるはずもなく。
    1人で教えられる自信がなく、紫も誘って部屋へ戻った。
    流石に前日ということもあって、わからない部分も少なく、自分の勉強もできた。今日は門限の前に帰らせた。

    そしてテスト最終日。今日は英語に古典と、茅秋が苦手な教科のうち2つが固まってしまった。
    「……葵。どうしよ。ぜんっぜんわかんなかったんだけど!外に出れねぇのに英語とかやる必要なくね!?」
    「まぁまぁ、落ち着けって。とりあえずテスト終わったんだから、忘れようぜ」
    「そうだな~…。あっそうだ!」
    何かを閃いたような顔をすると、茅秋は大声で紫を呼んだ。
    「おーい、紫!こっち来いよ!」
    大声で呼ばれ、嫌な顔をする紫を他所に笑顔で呼ぶ茅秋。紫は渋々とこちらへ来た。
    「なぁ、3人で打ち上げにカラオケでもいかね?」
    「なんや、そういう話やったん?もちろん、いこーや!」
    「おお、ok」
    2つ返事で行くことが決定すると、終礼が終わってすぐにカラオケへ向かった。
    その日は夜遅くまで歌っていた。寮の門限さえ守れば時間なんて関係ない。お菓子や料理を沢山頼んではしゃぎまくった。遊べる時間ギリギリまでいた。



    そして今日は運命のテスト返却の日。1人1人担任の元へ行き、返却される。身体は昨日まで休みだった感覚がまだ抜けず、頭はテスト返却への恐怖でいっぱいだ。
    出席番号が1番で、真っ先に返された茅秋は真っ先に俺達の席へ向かってきた。
    「赤点なかった!!」
    「おー、お疲れ様。これであったら俺達の努力と時間を返して欲しいね」
    「もー、一時はどうなる事かと思ったわ…とりあえず赤点なくてよかったわー…」
    「いやぁ、こんな高い点数取ったの初めてだわ!まじさんきゅ!」
    そう言って手に持っているのは赤点ラインの40点をギリギリ超えた点数の解答用紙。あれだけ頑張って40点台というのもどうかと思ったが普段10点台を繰り出している茅秋にしたら高得点なはずだろう。
    ただ他が40点台の中、生物だけ異様に点数がよかった。
    「なぁ、なんで生物だけこんないいんだ?」
    「ああ、これ?何でだろうなー。人体が範囲だったからかな?」
    「すっごい嫌な予感しかしないんやけど」
    「ほら、実物見たことあるし」
    「ほらぁぁぁぁあ!もう、ちょっとでも生々しい話やめてくれん!?」
    「ええ、生々しいか?まぁ、悪ぃ」
    そんなことを話しているうちに俺の番が回ってきた。返ってきたテストを見ると、直前に読んだ部分のヤマが当たった所もいくつかあり、まぁまぁな点数は取れた。
    そして、俺のすぐ近くの主席番号の紫も、返ってきた。
    「なー、2人はどうだった?いくら俺だけ点数見せるのも不公平じゃねぇ?」
    「自分は自ら見せに来たやんけ…まぁ、見せてもええよ。ほら」
    そう言って差し出したテストはほぼ70点後半をキープしている。
    「お前なんでこんな点とれんだよ」
    「いや、普通に勉強してたらこんくらいは行くって。葵もはよ見せろや」
    半ば取り上げられそうになりながらもテストを見せる。
    「はぁっ?この学院のテストで90点台叩き出すヤツ初めて見たわ…難しくなかったん?」
    「いや、普通…」
    「だってあんなに時間なかったんよ?」
    「空き時間にパパッとやればなんとか」
    「そんなんじゃ普通取れないって!いやぁ~これだから天才は」
    ここで、これまで一言も喋らなかった茅秋が口を挟んだ。
    「もー、お前らなんでそんな取れるわけ!?紫と30点差だし、葵となんか50点差じゃねぇかよ!」
    俺と紫は目を合わせた。そして茅秋の肩に手を置いて言った。
    「「引き算出来たから大丈夫さ」」
    「お前らふざけんなよ!」
    そう言って悪魔を憑依させようとした茅秋は担任の拳骨で静まった。
20話へ  7月ページへ  22話へ
bottom of page