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20話 聞き耳
「……僕が人見知りなのはきっと僕がいけなかったんです」
「…俺はそういうことをするのが当たり前で生きてきたから、そんなこと思ったこと一度もなかった。ヒトを殺して何も思わないなんて、無責任な話だよな」
「紅樹にはちゃんとヒトを殺したことに対する感情があったじゃないか」
「きっと皆お前を受け入れてくれるよ」
撓を失って引き篭もっていた自分が何を言ってるんだと思った。こんな俺が言っても説得力ないかもしれない。けど、楽しそうに笑っていた紅樹の笑顔は守ってやりたいと思った。
紅樹の為にも、茅秋の為にも。
だから、先輩として、なにか出来ることがあれば協力してやりたい。
「……ありがとうございます。まだ慣れないかもしれないけど、クラスのみんなと話してみたいと思います。こんなつまんない話、聞いてくれてありがとうございました」
そう、鮮やかな笑を浮かべると、自室へと駆けて行った。
「で、聞いてたんだろ?」
俺がそう言うと、物陰から小さな影がひょこりと顔を出した。
「やだなぁ、バレてた?」
「お前とのかくれんぼ、負けたことないだろ?」
「へへっ、いっつも負けてばっかだったなぁ」
物陰からでてきたのは撓だった。カラオケで解散したときに帰ったと思ったが、紅樹と話し始めたあたりから、ずっと誰かの気配がしていた。
ヘラヘラと笑う撓の目は笑ってなどいなかった。
「なんで聞いてたんだ?」
「だって、葵の友達楽しそうに傷付けておきながら、さっきずっと下向いてたなぁーって思って!気になるじゃん?」
本心で言っているのかそうでないのか、よく分からない表情で話す。いつも以上に何を企んでいるのか分からなかった。
「まぁ、思ってた通りの話だったからつまんないなぁー」
「人の話をつまんないって酷くないか?」
「だって、葵以外興味無いし」
撓のその目は嘘一つない真剣な眼差しだった。
「まぁ、とりあえず帰ろうよ!」
「…そうだな」
俺と撓は部屋に戻るまで、ずっと無言だった。
別に話すこともなかったし、俺は撓といれるだけで嬉しいからそれでも良かった。
「ねー、葵」
「なに?」
「悪魔と仲良くやれてる?」
「…?うん、まぁそれなりに」
「そっかぁ~いいなぁ。ビフス、全然言うこと聞いてくれないんだけど!」
「まぁ、確かに仲悪そうだったな」
「ねぇ、知ってる?悪魔に適性があると分かった人達を集めて、二学期から特別学級ができるんだって!しかも、全学年から集まるんだって~。変な話だよねぇ」
「そうなのか?まぁ、学院側が決めたなら俺は別にいいけど」
学院側は、どうしても生徒の戦闘力を高めたいようだ。
あの戦争が終戦した後も、人類は敵を殲滅させる為に戦い続けた。そして終戦から数年が経ったある日、政府が敵殲滅の報告があった。
その時、殲滅部隊に配属されていた俺はあたりを見回した。あたり一面動かなくなった敵の機械の山だった。どこを見ても機械ばかり。その中に、横たわった人類も沢山いた。誇りを持って国のために戦った誇り高き戦士だった。
俺はその場でその人たちに敬礼をした。“お疲れ様です”の意を込めて。
そんな俺達が苦労して倒した敵に、生き残りでもいたのだろうか?もしいたのなら何故政府はその事実を隠していたのか…。そんな疑問を残しつつ自分の部屋の前に着いた。
「じゃあ、また」
「うん、またね~」
そう言って自室の扉を開けた。
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