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18話 七匹

    「じゃあ、僕からいくね!」
    そう言うといつからいたのか、撓の後ろには悪魔がいた。
    真っ青な綺麗に手入れされている髪は肩のところでバッサリと切られている。パーカーにジャージというなんともシンプルな服装に似合わない整った顔立ち。それは何事にも関心を感じられない冷めきった目をしている。
    「…どうも。“墓場をコントロールする”チカラのビフスです」
    「もー、もうちょっと愛想よくして欲しいよねぇ。僕は1年の刈萱撓!よろしく~」
    無表情のビフスと笑顔の撓。相性が悪いのか、撓は笑いながらもビフスと1度も目を合わせていない。きっと俺らの知らないところで喧嘩でもしているのだろうか。

    「えっと、次は僕ですか…。2年の白金零といいます」
    雪のような真っ白なサラサラな髪に真っ赤な目はとてもよく映える。彼の耳は人間の耳ではなく、兎のような耳だ。チラチラと見える耳の付け根から、本物の耳だとわかる。制服も着崩さずにきちんと着ている。
    「この子は喋れないので僕が変わりに紹介しますね。“殺戮”のチカラのグラシャスです」
    長いであろう髪を美しいかんざしで一つにまとめている。純白の着物は悪魔であることを否定しているようで、まるで天使のような容姿をしている。腕が隠れる程の長い袖で口元を覆い、ずっとニコニコしている。一言で表すならば“美しい”殺戮のチカラには似合わない容姿だ。

    「次は僕ですね。3年の弾丸入木或賀って言います!」
    初めて会ったときもそうだったが、ストーカーであることを匂わせない、ただの無邪気な男の子にしかみえなかった。
    「やっと私の番ということですか!いやぁ、ヒトと話すのは久しぶりですねぇ。ここにいる方達だけでも個性は揃いだ!やはり人間は面白い…ああ、私の好奇心がとまらない!!」
    「ちょっとイム、喋りすぎ」
    イム、と呼ばれた悪魔は自分の番が回ってくるなり話がとまらなかった。
    紺色のスーツをびしっと着て頭には博士帽被っている。前髪を七三分けにし、長い髪を一つにまとめている姿は真面目な雰囲気を醸し出している。
    「すみません、いつもの癖でして。改めまして“弁舌家”のイムと申します。以後、お見知りおきを!」

    「4年の、蒼天夜珠です」
    アメジストのような美しい右目と対照的に左目は闇のように深い。じいっと見ているといつか吸い込まれてしまいそうだ。くせっ毛の髪を短髪にしていて、跳ねている毛がとても可愛らしい。その顔は整いすぎて、肌も白く、まるで陶器でできた人形のようだ。
    「もー、夜珠ってばぁ。そんな愛想悪いとお友達できないよぉ?」
    「べつに…」
    「もー、連れないなぁ。申し遅れました!僕は“策略”の悪魔、バララムです☆よろしくね~☆」
    ピンク色のフリルが沢山施されている服や、ミニスカートから覗く華奢な足は原宿系(?最近この言葉を知った)の女の子を連想させる。綺麗に切りそろえられた髪をポニーテールにしている。そんな可愛い見た目をしているなか、3つの骸骨を首からネックレスのように下げているのにはとても違和感を覚える。
    「あはは☆僕の性別はシークレットだよぉ☆」

    「5年の、河合紅樹、です」
    まだ緊張しているせいか、たどたどしく喋る。
    皆、褐色肌が珍しいのか、紅樹の顔をまじまじとのぞき込む。そのせいで更に下を向いてしまう。
    「“腐敗”の悪魔、レジェ…。よろしく」
    レジェ、と言った彼の表情は無機質なものだ。と言うよりかは、さっきから欠伸ばかりしている。きっと眠いのだろう。そんな第一印象の割には服装が派手だ。いわゆるストリート系ファッションのようだ。

    「最後は俺だな。6年の白須葵。よろしく」
    俺は2人を呼び出す。
    「はぁーい、“治癒”のマルルスでぇす。よろしくね」
    「“カミカリ”のオルルスです。よろしくお願いします」

    悪魔が2匹いる、ということに皆驚きを隠せず、まるで鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしている。
    オルルスに前に聞いた話だと、悪魔を従えることが出来るのは1人1匹まで。もし2匹従えることが出来たとしても心臓の負担が大きく、身体が耐えきれず死に至るらしい。俺は極稀に現れる特異体質のようだ。
    そんなこと気にしないでみんなで楽しく過ごそう、という撓の意見に従い、俺達はカラオケを満喫した。
    白金や紅樹の緊張は解けたようで、すっかり笑顔で仲良さげに話している。蒼天の顔は相変わらず無表情だったが、歌を歌っている時の美声に魅了されそうだった。



    すっかり日も暮れ、そろそろ寮の門限が迫っていた。丁度いい所で歌うことをやめ、皆それぞれの部屋へと戻って言った。

    「今日、楽しそうだったじゃん」
    「…はい、楽しかったです」
    「茅秋から、紅樹は人見知りだって聞いてたからさ。これでも心配してたんだ」
    「えっ、にぃが?」
    人見知りの事を言われ恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして下を向いた。
    「……昔から、戦うことは好きでした。でも、いつもにぃの後ろばかり追ってて…」
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