top of page

17話 打ち上げ

    実技試験も終わり、体育祭も終わり、一学期のイベントは残すところ期末試験のみとなった。
    この学校のテストは相当難しいようで、頭のいい紫ですら大変、と言っていた。試験までは残り1ヶ月と少し。今まで授業に出ていなかった分、他の人より不利な状況にいるのはわかっている。
    今までの分を取り返さなければと、復習用に用意されているプリントを貰い、それをやっている最中だった。
    今日は運動会の代休で、授業がない。絶好の勉強日和だ。しかも、他の皆は打ち上げに行ってしまっていて、寮の中はとても静かだ。普段誰かしらの声が聞こえているのが日常になっていて、少し物寂しい気もする。
    静かな空間に、コンコンとドアをノックする音が響く。“失礼します”と言って入ってきたのは紅樹だった。
    「障害物競走の出場者で打ち上げをしようと思ってるんですけど、白須先輩来ますか?」
    決して目線を合わせようとせず、少しおどおどしながら言った。後ろを見ると、茅秋と紫もいる。紅樹の付き添いできたのだろうか。
    俺はペンを起き、紅樹の元へ行く。そして両手で彼の顔を自分の方へ向けた。
    「人と喋る時は目を見て話さなきゃだめだぞ~?お兄ちゃんに言われなかったのか?打ち上げはありがたく参加させてもらうよ」
    そう笑いながら言って手を離すと、紅樹の顔は林檎のように真っ赤になっていた。紅樹は、わかりました、とだけ言ってかけていってしまった。
    「いやぁ、コミュ障治んねぇなぁ」
    「紅樹君めっちゃかわええで?『白須先輩誘いたいんですけど、付いてきてくれませんか…』って!いやぁ、無いはずの母性が目覚めるとこやったわ」
    「てかあいつ、集合場所言い忘れてんじゃねぇか…事前に聞いといてよかった」
    ほらよ、と言って手渡されたのは打ち上げの集合場所が書かれたメモだった。どうせ言い忘れるだろうと思ってメモを取っておいたらしい。
    「さんきゅ、行ってくるわ」
    そう言って俺はメモの場所に向かった。

    この学校には色々なものがある。外に出れない代わりに、敷地内でいろんなことが出来る。もちろん学校はある。カフェやレストラン、コンビニ、ゲームセンターやカラオケまで揃っている。しかも、一つだけでなくそれぞれの種類が豊富にあるのだ。俺たち生徒はそこで毎日を満喫している。
    メモに書いてあったのは、とあるカラオケだった。カラオケボックスに着くと、お待ちしておりました、と言われ、部屋まで案内された。
    ガチャり、とドアを開けると、パンッという爆発音とともに何色ものテープが眼下に広がる。

    「「先輩、優勝おめでとうございまーす!」」

    自分の置かれた状況についていけず、呆気に取られたまま頭から被ったテープをどけた。部屋を見渡すと障害物競走に参加したメンバーがクラッカーをこちらに向けている。
    「まぁまぁ、先輩、座ってください!」
    「アッお前、葵の隣に座ろうとしてるじゃん!学年順で座ってんだからな」
    自分の隣に座らせようとする弾丸入木と思わず口が悪くなる撓に笑いながら、5年の紅樹の隣に座った。
    「じゃー葵も揃ったことだし、お疲れ様でしたー!」
    そう言ってジュースを手に取り、乾杯をする。喉が渇いていた俺は水分が欲しくてたまらなかった。
    「僕、知らない人もいるんですけど、とりあえず悪魔含め自己紹介しません?」
    「お、それさんせー!」
    先程から2人しか喋っていない。白金はおどおどして下を向いているし、黒髪の子は永遠にジュースを啜っている。紅樹も、下を向いて固まっている。そういえば、茅秋が“紅樹は人見知りだから”と言っていたのを思い出した。

    「じゃあ、僕から行くね!」
16話  6月ページへ  18話へ
bottom of page