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16話 借り物競争
そう言って同時に紙をひらく。そこに書いてあったものは普通の借り物競争のお題と類似している。
1回目はメガネだった。俺は紫の元に全速力で走っていく。すばしっこい撓と、お世辞にも走るのが速くはない俺。この体格差であれば特に気にならない問題点だった。
メガネを借りて審判の元へ向かう。同時に撓もついた。俺達はお題をクリアして2回戦に入った。それから3回戦、4回戦と続いた。そして、5回目のお題の時だった。
紙に書いてあるお題を見た瞬間、俺の勝ちが決まったと思った。
俺は横を向き、撓の手を引っ張る。
「俺の勝ちだ」
そう、笑顔で言って撓を背負う。バタバタと暴れ、抵抗する撓を抑えながら、小走りでゴールまで向かう。
そして、ゴールテープをきる。
試合終了の合図がなった。
お題の確認がされる。
審判からのOKがでて、俺は優勝となった。
この障害物競走で優勝すると確実に逆転できる、という噂が流れるほどに点数が入るらしい。今年は俺の活躍のおかげで5年に負けそうだったところをギリギリの点差で優勝した。
体育祭が終わって、自分の部屋に戻ろうとすると、撓にとめられた。
「ねぇ、あの紙なんて書いてあったの」
「…内緒」
「教えてくれたっていいじゃん!これで葵に負けるの2回目だよ…。僕、だんだん弱くなってない?こんなんじゃ…こんなんじゃ…!」
「大丈夫。俺はどんな撓だって大好きだから。どんな撓だって受け入れるから。心配すんな」
「もう、なんで僕の知らないところでかっこよくなってくんだよぉ」
俺は泣きじゃくる撓を抱きしめた。
「大丈夫。今度こそずっと一緒にいよう」
俺の紙には“大切な人”と記されていた。俺にとって大切な人は1人しかいない。もちろん、クラスに戻って友人もたくさん出来た。その友人も、もちろん大切だ。でも俺にとって撓は、大切な人、というくくりでは収まりきらないほどにかけがえのない存在なんだ。
あの時の悲しみをもう二度と味合わないよう、撓を手放さないよう、撓を抱きしめる手に力をこめた。
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