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15話 障害物競争

    下に降りると、すでに他の出場者達は集まっていた。見覚えのある奴らが多い。その中には撓がいた。
    撓は先月の実技試験の時にいい成績を出していた。そのため、選ばれたのだろう。撓は自信満々の顔で所定の位置についている。ほかの奴らも自信があるようで、その顔は晴れ渡っている。
  実のところ、俺もわくわくしている。全力で戦えたらどれほど楽しいだろうか。まぁ、何かあれば俺の治癒で治せばいい。

    __選手を発表します。1年刈萱撓__

    撓の名前が呼ばれると、1年がいる所ら辺から歓声が聞こえた。まだ声変わりをしていない甲高い声で、幼さが残っている。
    歓声を浴びた撓はクラスメイトに向かって手を振っている。

    __2年白金零、3年弾丸入木或賀、4年蒼天夜珠、5年河合紅樹、6年白須葵__

    それから、名前を呼ばれる度に歓声が続いた。学年が上がっていくにつれて歓声が野太くなっていくのはなんだか面白かった。
    観客席の方を見ると、2人が大きく手を振っている。俺は小さく手を振り返した。

    __それでは、よーい…__

    “スタート”、という声と同時に鼓膜が破けそうなほど大きな爆発音がした。それは撓の仕業だった。合図とともに悪魔を憑依し、そのチカラでコースを爆発させたのだ。その爆風に乗ってスタートをする。なかなかいいスタートだ。すでに姿は見えず、体育館を出てしまっている。
    ほかの奴らも、急いで憑依させている。俺もみんなと同じように憑依させる。俺のチカラは多少戦闘能力をあげはするが、防御に特化していてチカラを過信してはいけない。足は決して早い訳ではないため、相手を蹴落として上に上がるしかない。
    急ぎ足で体育館の出口まで行く。そこで俺は振り返り、雷をはなった。これで少しは麻痺するだろう。

    外に出るとそこには沼地があった。側にある看板にはピラニア注意、と書いてある。ピラニアに喰われないように進めばいいようだ。
    俺は防護癖を沼地の上に張った。これでピラニアなど気にせずに渡ることが出来る。防護癖に足をかけたと同時に、後ろから2年の白金とか言うやつが追いかけてきた。雷で怯んだようには見えない。恐らくあれを避けたのだろう。範囲を広めに放ったのに、あれを咄嗟に避けるとは、身体能力がかなり高いかなりはずだ。侮ってはいけないだろう。
    俺は同時に後ろの防護癖を無くしつつ駆け足で渡る。すると後ろから“お先に失礼しますっ”という声が聞こえたかと思うと、白金は軽々と沼地をジャンプして飛び越えた。そう思った瞬間、何かにぶつかったのように倒れ込んだ。
    白金が着地して走り出すであろう場所に防護癖を仕掛けておいたのだ。白金はそのまま気絶した。“よそ見は身を滅ぼすぞ”と呟き、先を急ぐ。もう撓の姿は見えなかった。

    次の目的は戦争時の敵、__出来こそないの機械__を模した敵の破壊だった。一度本物と戦ったこともあり、何の問題もなく、電流で機械の回路をショートさせて終わった。

    それからも、普通の障害物競走ではやらないようなものばかりだった。
    針山の上で綱渡りをした時、蒼天と紅樹に抜かされかけた。どうやら2人でグルになっていたようで、攻撃を仕掛けてきた。いくら防護癖を張ったからと言っても、綱の上ではバランスを崩せば串刺しだ。
    もしもの時の為に2人にバレないように綱の下に防護壁を張る。これなら落ちても問題ない。慎重に綱渡りつつ2人に雷を放つ。
    蒼天はどうも運動が得意ではないようで、すぐに気絶させることができた。その一方で紅樹はすばしっこく、少し手間取ってしまった。
    2人との戦いに時間を割いてしまい、撓との差が大きく開いた。俺は先を急ぎ、綱ではなく防護癖の上を渡って走って行った。

    また、先生との戦いは各学年の得点に大きく影響するらしい。ここまで来れなかった場合、減点されるようだ。
    実技試験の成績を見つつ、誰と戦うかを決める。俺はガタイのいい体育教師とだった。いかにも曲がったことが大嫌い、というような顔立ちで、戦い方もまさにそれだった。
    悪魔の能力を使っている防護癖を破壊しようと試みるなど、チャレンジャーな先生だった。
    力が強く、俺の腕力では到底勝てない。防護癖で押しつつ電流を流し、勝利に持ち込んだ。

    その他にも難所は沢山あった。その度に誰かに追い抜かされそうになったこともあったが、なんとかチカラを駆使して防いだ。
    対茅秋戦で発見した、刀に電流を纏わせるのは、とてもいい策だった。かすりでもすれば気絶するであろう量の電流を流しておく。そうすることで皆警戒し、近寄ってこないのだ。

    そして、最後の難問、紙に書いてあるものを持ってくる最後の砦_いわば、借り物競争_がはじまった。
    借り物競争は体育館の入口に最初のお題が置かれている。借り物競争は体育館内で行うのだ。
    俺の隣には撓がいる。ほかの奴らは別の場所でリタイアさせた。撓との1体1に持ち込むために。

    俺達は目を合わせる。

    「今度は勝つからね」

    「また勝ってやる」
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