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14話 体育祭
『負けるなぁー!!』
『先輩に勝つぞー!!』
今は障害物競走の最中。皆の歓声が響く。ここは競技場とはまた違った、校庭ほどの広さがある体育館。俺達は今、体育祭の真っ最中だ。
それは2週間前。またしても担任からの突然の報告だった。
「2週間後に体育祭がある。今日から体育は体育祭の練習を始める。朝のこの時間に出る競技を決めておけ。あー、そうだな。そこの信号機トリオでいいや。指揮とって決めておけ」
信号機トリオ。それは俺達3人のことで、髪色が赤、青、黄だから、という何とも単純な理由だ。ある日、授業中に話していた俺達を注意するのにまとめて“信号機トリオ”と呼んだのが始まりだった。それがクラスに受け、なぜか学校中の先生にまで知れ渡ってしまった。
それにしても、先月に実技試験があったばかりなのに、体育祭なんてやるのか。この学校はとことん思いついたらすぐに実行にうつるんだな。
俺達は面倒くさがりながらも教壇に上がった。
教壇には当日にやる競技と人数が記されているプリントが置かれている。とりあえず競技を黒板に書く。はじめは茅秋が書いていたのだが、字が壊滅的に下手でみんな読めず、俺が書くことになってしまった。
競技は応援、大玉、綱引き、リレー、障害物競走と、なんとも普通な競技だ。
5分間のシンキングタイム。クラスメイトは周りの友人を誘って同じ競技に参加するようだ。かくいう俺達も出る競技を揃えよう、と話している。
俺は知らなかったが、体育祭は毎年行っていたらしい。皆楽しみなようで、嬉しそうな顔をしている。
その時、俺はふとプリントに目をやった。そこには自分の名前が既に記されている。それは、障害物競走の出場メンバーだった。先月の試験の結果を見て、決めたのだろうか。障害物競走は各学年から1人ずつ出場し、競い合うらしい。
俺は黒板に“障害物競走 決定済み”と書いた。すると、出たかった人もいるらしく、少しブーイングがでたが仕方がない。学校側の決定事項だ。
「なんで決定事項なんだ?」
「これ、見てみ」
そう言ってプリントを2人に渡す。
「「なにこれ羨ましい…!」」
「えっ、先公直々のご指名ってわけやろ?うわー、羨ましいわぁ」
「これ、先月の試験で決めたんじゃね?さすが葵じゃねぇか!」
そんな話をしているうちに5分が経った。クラスの人数が少ないこともあり、1人2個ずつ出場する。俺は障害物競走に出るのに、その他にも2つ出なければいけなかった。
男子校なだけあって、皆の熱の入り方が尋常じゃない。競技の定員をオーバーしたときはじゃんけんで決めたのだが、じゃんけんですら白熱していた。
無事に競技も決まったところで、朝のH.R.の時間が終わった。
そして、練習はその日の体育の授業からはじまった。体育は週に3回ある。そのうちの1回で応援、残りの2回で競技の練習をするそうだ。
今日はその応援の日。学年で事前に決められていた応援係が指揮を執る。学年、と言っても1クラスしかないから同じクラスの人なのだが。
応援の内容はかなりハードだった。2週間でこれを完璧にしなければいけないとなると本気でやらないとダメかもしれない。
応援、なんてよくある応援団がいて~みたいなのかと思いきや、クラスをいくつかに分け、男性アイドルグループのような激しいダンスだった。
週に1回しかないため、授業だけでは間に合わない。放課後や昼にも練習をした。
一方で、競技の練習も白熱していた。皆、1位をとる為に必死だ。この学校はどの学年も強く、過去には1年が6年に勝つこともあったらしい。それは俺も嫌なので練習は真面目に参加した。
そんななか、障害物競走の練習は1度もしなかった。学年から1人ずつだから練習試合をするのは難しいのはわかるのだが、1人でもできるものなのではないのだろうか。そんな疑問を残しつつ、勝負の日を迎えた。
そして次の競技はいよいよ障害物競走だ。実技試験の時と同じ、無機質な声で解説が流れる。
__今から、障害物競走を始めます。ルールは単純明快。コースの障害を上手く交わしながらゴールしてください。レースの最中の相手への攻撃も可能です。そして、最後にゴールのところに紙が置いてあります。その紙に書いてあるものを本部まで持ってきてください__
コースは体育館の外まで繋がっている。そのため、コースを見ることが出来ない。体育館の中には大型のスクリーンがある。おそらく、それに映されるのだろう。また、ルール説明を今するあたり、毎年ルールは違うのだろうか。それなら当日まで練習がないのも頷ける。
__各学年から1人ずつ出場します。競技に出る6名は所定の位置についてください__
「しっかり勝ってこいよ」
「葵の勇姿、ちゃーんと目に焼き付けておくわ」
「「頑張れ!」」
茅秋と紫に声をかけられ、俺は強く頷いた。
「いってくる」
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