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12話 敗北
地下の待機場に戻る。服装はもうジャージに戻っていた。そこには次に試験をする紫と、その相手がいた。そして、ベンチには茅秋が座っている。丁度手当をされている所だった。
「茅秋」
「あ、葵。試験、楽しかったぜ」
「……その、悪かった」
「ん?これのことか?別に気にしてないし、大丈夫だって!」
そう言う茅秋の身体には、俺がつけた刀傷から生々しく赤黒い血が流れている。その周りの皮膚は痛々しく真っ赤に腫れ上がっていた。
俺は茅秋と向き合うように席に座った。そして、傷に手を当て心の中で“治れ”と願った。今度は黒い霧ではなく、明るい光がぽおっと現れた。そして、茅秋の傷口を覆った。傷はすっと消えていった。
「…サンキューな」
いつもの様に明るい笑顔でなく、少し寂しげに言った。
「なぁんか寂しい奥さんをいたわる新婚夫婦みたいやわぁ。見せつけんといてくれん?」
そばに居る紫がケラケラ笑いながら言った。
足に義足をつけ、いつもは結んでいるズボンの裾をおろしている。初めて会った時から今まで、紫が義足をしているところを見たことがなかった。使い慣れていないようで歩き方は少しぎこちなかった。
「足、大丈夫?」
「俺を誰やと思ってんの?全然ダイジョーブ!それじゃ、行ってくるな」
向日葵のような笑顔でそう言って通路に駆けていった。
俺と茅秋は試合を見るため、観客席へ戻った。
__2番。6年藤蔭紫vs5年河合紅樹。呼ばれた生徒は下まで降りてきて下さい__
またしても無機質な声でアナウンスが流れる。
__選手入場__
その言葉と共にゴングがなる。この音が鳴るとうるさかった競技場も静まる。
さっきは大丈夫と言っていたが、足を引きずりながら紫が入場した。しかし、その顔は満面の笑みを浮かべていた。
対する相手は褐色肌の紫よりも背の高い奴だった。見たところ、今にも折れてしまいそうなほど細い紫とは正反対な体格をしている。
さっきの俺達と同じように足元に魔法陣が現れ、霧に包まれる。霧が晴れたら…試合開始だ。
霧が晴れ、そこにいた紫は正直言って男の俺から見ても可愛かった。全体的に薄い水色で統一された服装。それは紫の髪の色にとても似合っている。一般的にはゴスロリ、とでも言うのだろうか。可愛らしい小物やレースが装飾されている。鉄製だった義足はまるで本物の足のように綺麗な肌色をしている。手には大きな鎌を持っている。心なしか、先程よりもしっかりとたっているように見える。
対する相手は全身黒ずくめだ。その中で、顔を包帯でぐるぐるに巻いているのがとても目立つ。黒地のTシャツには様々な色の飛沫がプリントされている。ストリート系のように見えるそのズボンにはチェーンが装飾されている。俗に言うストリート系のようだった。そして、手には双剣を持っていた。
紫の鎌はだいぶ大きい。それに比べて相手の双剣は小さめの作りのようだ。間合いに入られてしまったらそこで決着は付いてしまうだろう。
戦いの準備が出来たと思ったら突然相手が消えた。そう思ったのもつかの間、金属がぶつかり合う鈍い音が響き渡った。相手が見えないくらいのスピードで攻撃してきたのだ。
それからは激しい戦いだった。相手はすばしっこさが売りのようで、何度も紫の間合いに入ろうとしていた。それを紫は全て防ぎ、はじき返す。双剣と大鎌という、とてもリーチの差が激しい中、ここまで試合が続いたのは心底驚いた。
試合終了まで、1分を切った時だった。誰もが引き分けで終わるだろうと思ったその時、紫が相手の武器を叩き落としたのだ。そして、鎌を首に押し当てる。何か言っていたような気もするが、観客席までは聞こえない。
武器もなくなり、戦闘不能になった相手。紫の勝ちが決まった。そう、誰もが思ったその時だった。相手が武器に手をかざすと、武器はその場から消えたと思ったら手の中に収まっていた。そして、紫はそんなことも知らず、背を向け、退場しようとしたところに思いっきり刃で斬られた。
驚いた表情で振り向き、鮮血を吹き上げた。紫は倒れ、倒れた場所は血潮で真っ赤に染まった。
そこで時間切れとなり、試合終了のゴングがなった。
__勝者、河合紅樹__
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