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11話 勝利
アナウンスが終わると、ゴーンと低い鐘の音がした。開始の合図だ。
通路を通ってリングに出る。すると歓声と同時に拍手が巻き起こる。
俺はアナウンスの通りに悪魔を呼び出した。呼び出す、と軽く言ってもやり方すら教わっていない。心の中で呼びかける。
“マルルス、オルルス。俺に力を貸してくれ”
気のせいかもしれないが、“しょうがないなぁ”“主の為なら喜んで”と、そう聞こえた気がした。あいつらならそう言っている気がする。
すると、足元に魔法陣が描かれた。そこから出てきたのはいつもの通りの霧。しかしそれはいつもよりも濃い気がした。霧は俺の身体にまとわり着き服装を変える。
紺色のジャージは真っ白なスーツに変わる。真っ赤なネクタイはまるで血で染めれたようだ。ジャージの上着はまるで執事が着る燕尾服のようなジャケットになった。裏側にはオレンジと白のチェックが入っている。手にはグローブをしている。
対する茅秋も同じだった。その服装はフォルと瓜二つ。黒いノースリーブのパーカーに紺のジーパン。腕や手には金や銀の装飾が施されている。それはまるでフォルの“窃盗”のチカラで盗んだ金品を自慢しているかのようにも見えた。
黒い霧が晴れた。それが試合の合図だ。
カキンッと金属音がぶつかり合う音がする。俺も茅秋も真正面から向かった。俺は自分の左手から無意識に刀を出して茅秋からの攻撃を防いでいた。普通に考えたらおかしいこの状況も、悪魔がいるなら何でもできる、という考えに陥っていた。思考回路がショートしている。適性検査に合格したらその原理や理由も教えてくれるだろうか。
そんなことを考えていると、俺の手のあたりからバチッと音がして茅秋が1歩後ろに下がった。手を見てみると、グローブから電気がパチパチと音を立てて発生していた。そう言えばオルルスは“カミナリ”のチカラを持っていると言っていた。これは使えるかもしれない。
俺はその手で刀を撫でる。すると刀は触ると感電する程の電気を纏った。
電気をまともに触ってしまっては少しの間麻痺して動けなくなるだろう。そう考えたであろう茅秋は持ち前のすばしっこさで俺の後ろに回る。そして俺にナイフを突き刺そうとする。
「悪いがこの試験、勝たせてもらう」
「俺を…なめるな…っ!」
茅秋の腕をつかみ、電流を流す。ぐあっ、と苦しそうなうめき声を上げて俺の手をふりほどく。ナイフを落としかけたが、腕を抑えながらもう一本のナイフで襲いかかってくる。
今度は後ろに回るのと同時に斬りかかってきた。相手はナイフだ。間合いに入られてしまっては避けることも出来ず、もろに攻撃を受けてしまった。脇腹から血がにじみ出る。真っ白な衣装に身を纏っている俺はまるで血の海に飛び込んだかのように真っ赤になった。と、誰もが思ったことだろう。しかし、ジャケットには破れた跡だけで血などついていなかった。
“もぉ~僕が治してなかったら倒れてたよぉ?ちゃんと避けてよね!”
頭の中にマルルスの声が響く。確かに、斬られた感触はあった。でも、スーツに染みでないほど治癒は早いものなのだろうか。おそらく、血が出るよりも早いスピードで治癒してくれたのかもしれない。マルルスには感謝しなくちゃな。
くるっと回って茅秋の方を見る。頭の中でマルルスにたのむ。“防護癖を張ってくれ”と。もしかしたら治癒能力の応用でできるかもしれない。一か八かの勝負に出る。心なしか、身の回りが暖かくなった様な気がした。俺の身に何が起こったのかわかっていない様子の茅秋は、警戒しているのか近づいてこない。
「怯えてるのか?」
そう言って指を立て、挑発をする。単純な茅秋はおそらく攻撃をしてくるだろう。
予想通りに攻撃を仕掛けてきた。さっきよりも素早く、今度は真正面から向かってくる。俺は念のため刀を構え、避けようとしない。その様子を見ている観客席からはどよめきの声があがる。
「怯えてなんか…ねぇんだよっ!!」
そう言ってナイフを振り下ろす。しかし、カキン、と鈍い音がしてナイフが跳ね返った。俺は少しも動いていない。驚きで競技場は静かになった。茅秋も困惑しているようだった。
俺は消えかかっていた電気を刀にもう一度纏わせ、茅秋に振り下ろした。
「悪いな。楽しかった」
制限時間は10分。競技場に設置されているタイマーを見るとまだ5分以上残っていた。
__勝者、白須葵__
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