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07話 悪魔
逢歌と出会って数日が経った。俺はクラスに馴染みつつあった。始めは話しかけてくれなかったクラスメイトも今では気軽に話しかけてくれるようになった。
そんなある日のことだった。俺はまた今日が大変な日になるとも知らずに笑って朝を過ごしていた。
ガラッと音を立てて扉を開けたのは担任だった。
「今日の授業は無しだ。体操着に着替えて校庭に集まれ」
クラスは授業がなくなったことに対する喜びと、何をするのか分からないことへの不安の声が募った。
「静かに。学生の本分は勉学だ。戦争は終戦したが“外”では戦争から生き延びた敵が悪さをしている。その為今年からは自己防衛できる程度の戦闘能力を高める授業を導入することになった。従ってお前らには悪魔と契約してもらう」
担任の“悪魔と契約”という言葉でどよめきの声はさらに大きくなった。
紫に聞いた話だが、悪魔のことは歴史の時間で習ったらしい。何百年も前、国が廃止にしたオカルト本を隠し持っていた少数の人類が研究に成功し、人類を守る術として活用されていた、と。
授業とはいえ何百年も昔の話なわけで
。どんな研究をしていたかなど記される書物も無く、唯一見つかったのが悪魔との契約方法を記した書物だったらしい。
「あー、白須はやってないか。他の奴らは授業で習ったことだと思う。今から契約するために校庭に集まって貰うが、発見された書物を___」
担任の話は眠くなるほど長かった。要約するとこうだった。
発見した書物もまた何百年も昔の文字で書かれていた。それを現代の技術で研究した結果わかったのが契約方法だ。
この世には二つの神がいる。一つは天使。もう一つは悪魔。この世界は天使と悪魔が創った世界であり、二つの統制が崩れた時、世界は滅びに至るだろう。
だから、契約する者は悪魔に適性がある選ばれし者のみ。世界を統制する為にいる悪魔の人数が少なくなってしまってはいけないからだ。選ばれなかった者達は契約を解除され、悪魔に関する記憶を失い、普通の軍事訓練のようなものをする。
というような内容だった。
「話は以上だ。さっさと着替えて校庭に集まれ。」
そう言うとやり切ったかのように溜息をつき、教室を出ていった。
担任が出ていくと驚きと不安で声が出せなかったクラスメイト達は一斉に話し始めた。俺は選ばれる。選ばれなかったらどうなんの?俺は戦争を体験したんだ。怖くない。そんな声がチラホラと聞こえてきた。
茅秋、紫はこちらに目を向けた。楽しみだと言わんばかりの目で。
着替えを終えて校庭に集まると結構な人が集まっていた。今年から導入したと言っていたし、恐らく学園にいる全員が契約するのだろう。学園長は相変わらず姿を見せず、理事長が話を始めた。
俺達は理事長の話を聞かずに駄弁っていた。
「なぁ、悪魔に適性あると自分で思う?」
「俺は…別にどっちでもいい」
「俺はあってほしいなぁ。悪魔との生活とか、楽しそうやん?」
『はい、静かに!それでは今から始めます。体育館を六つに分けましたので、各学年一人ずつ契約を始めてください』
その一言で契約が始まった。この学園は人数が少ないため、各学年一クラスしかない。一クラスの人数も少ないため、自分の番が早くまわってくるだろう。俺達は体育館から出てくるのをじっと待っていた。
体育館からは恐ろしい程に何も聞こえない。普段ならば煩いほどに人の声が聞こえる。中で何をやっているのか想像もつかないという事実は俺達に恐怖心を植え付けた。
その時。キキィッ…と音がして重々しく扉が開いた。そして、出てきた。身体の周りに黒い霧を纏った、生徒が。そして少しタイミングをずらし、他の五人も出てきた。
皆同じ様に黒い霧を纏っていた。体操服は戦闘に特化された服に変わっていた。皆それぞれ違うことから個々の能力に合わせているのだろうか。
その姿はいつしか失った誰しもが一度は持ったことのある厨二心をくすぐった。
そして、先生に急がされテンポよく入っていった。そしてとうとう俺の番がやってきた。
『白須、次だ。』
体育館に入ると床には魔法陣が書かれ、小さなテーブルがあった。テーブルの上には授業で習ったであろう書物の写しと小さなナイフが置かれていた。
その書物の表紙には消えかかっている文字で『エティ』と書かれていた。手に取ってみると付箋が貼ってあった。そのページを見てみると“悪魔の召喚と契約方法”というページだった。このページの通りにやれという事だろう。
俺はナイフで腕を斬り、魔法陣に血を垂らして言った。
「___我の命令に従い、いでよ悪魔」
正直言って何をやっているんだと恥ずかしくなった。厨二心がくすぐられると言ったが前言撤回しよう。恥しい。
そんなことを思っていると魔法陣から先程見た黒い霧がうまれた。その霧は形を成していき、やがて人型へと変化していった。
『私の眠りを妨げる者はお前か?』
「我が名は白須葵。貴様と契約をしに来た」
書物には契約をする上での注意事項がいくつかあった。
一、敬語を使ってはいけない。
一、悪魔の誘惑に耳を傾けてはいけない。
この二つを厳守せよ。守らねば悪魔に魂を吸われ自身も悪魔と化すだろう。
と、そう書いてあった。理由は書いてなかったが実際に守らなかった場合の実験結果まで書いてあった。恐らく、本当のことなのだろう。
『私の名はオルルス。カミナリを操る悪魔だ。お前は何の為に私と契約をする』
「……愛しい人や友達を失いたくない。俺のこの手自身で守りたい。そのためには力が必要だからだ」
『愛しい人。それは自分の思いが届かなかったとしてもか?友人がお前のことが友人だと思っていなくても、裏切られても同じことが言えるか?守るなら…悪魔になった方が守れると思うぞ?フフッ』
きっとこれが誘惑。確かに守りたいというのは事実だ。でも俺は悪魔になんかならず人のまま守りたいんだ。この間だって結局は撓と弾丸入木に助けられてしまった。誘惑に負けじと俺は叫んだ。
「そんなことはいい。早く、お前の力を俺に貸せ……ッ!!」
『__お前のその強い気持ちは伝わった。他人のために命を捨てられるか…見ていてやろう。では契約をしよう。私に血を吸わせろ。それが契約方法だ。激痛に耐えられるかな?昔は簡単に死んだやつもいたなぁ。』
そう言って気味悪く、ケタケタと笑った。
「構わない。血を吸え」
そう言って俺はシャツのボタンを開け首を出した。悪魔というよりも吸血鬼を相手にしている様で、相手は恐らく男で。本当だったら吐き気がするところだ。
悪魔は躊躇すること無く俺の首筋にかぶりついた。奴の言う通り激しい痛みに襲われた。でもこんな痛みなんてあの時受けた痛みよりも可愛いもんだ。そう思い必死に我慢した。
突然悪魔は血を吸うのをやめた。
「おい、契約は終わったのか?」
『……グッアアアァッお前ッ…体内で既に一人飼っているのか…ッ?!』
「飼ってる?何の話だ。俺は何も飼ってなどいない」
この悪魔の言っている事が理解出来なかった。俺は何かしてしまったのだろうか。もしかしたら適性が無かったのかもしれない。そしたら俺はこのまま死ぬのかな……。俺は吸血による痛みと貧血によって失いゆく意識の中声を聞いた。
『あーあ。主が気付くまで黙ってようと思ってたのに』
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