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06話 名前
__なんだろう。周りがやけに騒がしい。俺は疲れているんだ。休ませてくれ__
その思いは届かず、騒がしさに負け目を開けた。
「葵、大丈夫?」
「わあああよかった先輩目を覚ましたぁああ」
「うわああああああごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「ちょっと状況がわからないんだけど…とりあえず黙ってくんね?」
そう言うとピタッと静かになった。俺は落ち着いて周りを見た。白いカーテンに囲まれたこの部屋は恐らく学園の保健室だろう。締め切られたカーテンの中にはベッドに寝ている俺。俺の周りで喚く弾丸入木と、心配そうに眺める撓と茅秋。そしてなぜか俺にまたがって号泣している…さっきの敵。
大人しく(?)俺の上にいるさっきの敵はずっと泣いていたのか目の下には涙のあとがある。
「あのさ…」
「うわあああすみませんでした!僕が貴方様を傷付けてしまったのですよね!?大変申し訳ありません!自害してお詫びしますうううう」
そう言って自身の腕を刀に変形させ、今、ここぞと言う風に自分の首をかっ斬ろうとしている。
「いやいや!ちょっと落ち着けよ。ほら、腕を戻して、な?俺はもう何ともないんだしさ。怒ってないし」
「嗚呼なんと勿体無いお言葉…ありがとうございます」
「それよりさ、なんでああなったのか教えてくれない?」
「あれはただのオイル切れです。まぁ、見てわかるとおり機械なもので…オイルが切れてしまってオート操縦になってしまったんだと思います」
「ただのオイル切れかよ…でも、なんで地下通路なんてとこにいたんだ?」
「実は僕、今日からここに転入してきたんです。理事長室に行く約束の時間まで少しあったので探検しようと思い、地下通路への入口を見つけたんです。興味本位で中に入ったんですよね」
「すっげぇしょうもない理由しかなくないか…?」
オイルが切れたのはただの入れ忘れだし、地下通路にいたのはただの興味本位。ただの天然としか言いようがない。これには苦笑いしか出来ず何も言えなかった。
そんな変な空気を遮ったのは撓だった。
「そうだ!こんなくだらない話するのもあれだしさ、自己紹介しようよ!」
くだらない話と称するのもどうかと思ったがみんな賛成のようだった。最年少からやっていこう、ということになった。
「僕は1年の刈萱撓。よろしくね!」
「3年の弾丸入木或賀。よろしく」
「6年の閼伽磐茅秋だ。よろしくな」
「…6年の白須葵。よろしく」
ここまでみんな言ったが、こいつだけ黙っている。いい加減こいつ呼ばわりするのもあれだし早く名前を知りたかった。
「どうした?」
「……皆さんのお気遣い、大変嬉しいのですが、僕…名前がなくて……」
「「名前が無い!?」」
撓と或賀は声を揃えて驚いていた。俺達が小さかった頃、スラムで生活していた頃は名前が無いなんてゴロにあった。しかし敵からの攻撃もなくなり平和になったこのご時世で名前が無いというのはいささか不思議だった。当の本人は見てわかる程のしょんぼり具合で、撓と或賀はどうしようかと悩んでいた。そんな沈黙を破ったのは茅秋だった。
「名前がないなら付けてやれば良いだけじゃね?」
「「それだーー!!」」
「そうだよ、僕達が付けてあげればいいだけの話じゃん!先輩たまにはいい事言う~」
茅秋は褒められたのか貶されたのか、呆れたような表情だった。
「そ、そんな滅相もないです…僕なんかに…」
「ダメッ!そうやって、ネガティブ思考 は禁止ね?」
「うう~頑張ります…」
そうして俺達は名前を考えることにした。みんな一生懸命考えていた。名前。それは一生自分に付き添っていくもの。スラムにいたころは他人に名前を付ける、なんてことよくあった話だが今は違う。ちゃんと考えてちゃんとつけてあげなきゃいけないんだ。撓はあーだこーだと考えていた。
「名前考えるの難しいよ~。ねぇ、葵はなんか思いついた?」
「えっ、俺?」
まさか振られるとは想わなかった。助けを求め茅秋の方をチラッとみるとニヤニヤしてこちらを見ていた。
「逢歌…なんてどうだ?声綺麗だし…」
「うわぁ~先輩センスいいですね!」
「めっちゃいいじゃん!さっすがぁ」
ちゃんと考えなきゃ、とか言っていた割に咄嗟に出てきたものを言ってしまった。逢歌、は声が綺麗だしその声で沢山の人と仲良くなれたらな、なんて思いがあったりする。しかしまぁそんな事を言ったら茅秋に爆笑されそうで言わなかったが。
しかし本人は気に入ってくれたようだった。逢歌、逢歌と一人で連呼していた。
「逢歌!なんて素晴らしい名前なんでしょうか!本当に僕なんかにいいのでしょうか。この名前、大切にさせていただきますね!」
逢歌は立ち上がり、お礼の言葉と共にお辞儀をした。そしてその場で嬉しそうに跳ねていた。
この一連の話が俺の上で起きていた事、そしてこの後逢歌が俺の急所を踏むまであと30秒_____
逢歌。
あいつは僕と弾丸入木がたたき斬った後も何事も無かったかのように動き出した。
僕は戦争の原因となった事故を思い出した。
もしかしたら逢歌はそれに関わっているのではないか。
そう思いつつも気付かれないように笑顔で話し続けた。
逢歌の目は機会で出来ている。
なんて当たり前のことだ。
瞳の奥を覗いてもただ冷めた機械の目でしかない。
機械は何処を見ても機械で出来ているんだから。
しかし僕と目が合った時、一瞬。
ほんの一瞬だが本当の冷たい目を向けられた気がする。
あれはただの勘違いだったのだろうか。
機械に感情なんてあるはずがない。
逢歌とは長い付き合いになる気がする。
僕は、疑問を抱きつつもそれが嘘であることを願っていた。
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