top of page
03話 復活
『今日から復帰になる白須葵だ』
時間は数時間前まで遡る。いつもの様にベッドの上でヒキニート生活を送っていた時のことだった。また突然撓が現れて理事長室へ行こう、と言い出した。俺は先月のことを思い出した。
「失礼します。お話よろしいでしょうか」
中から返事があったのかは分からない。撓は躊躇なくドアを開けた。
「ちょっと…返事待った方が良かったんじゃないのか?」
「理事長耳遠いからそんなの待ってたら何時間もかかっちゃうよ!」
そん人なら変わった方がいいんじゃないか…。そう思うのは心の中だけにした。
「1年の刈萱です。単刀直入にお話します。6年の白須をクラス復帰させて欲しいんです」
「え、いいよぉ」
そんな理事長の軽い返事で俺のクラス復帰が決まった。
そして冒頭に至る。俺は口を開き、よろしく、と言った。するとクラスからどよめきの声が上がった。何年も通わず、引きこもり生活を送っていたやつがいきなり喋ったのだ。驚かないヤツなどいるのだろうか。
『じゃあ、白須の席はあそこな。』
そう言って担任が指した席は窓際の1番後ろの席。隣に座っていたのは水色の髪で、眼鏡をしている、優しそうな奴だった。
俺が席につくと、丁度授業開始のチャイムがなった。しかし、教室には手ぶらで来てしまい教科書も何も持っていない。撓に持ってけと渡されたペンケースしかなかった。
「教科書、一緒に見る?」
そう話しかけてきたのは隣の席の奴。
蒼いその髪はとてもサラサラしてそうだ。たれ目の彼はとても優しそうな雰囲気をしている。ふと床に目をやると松葉杖があった。彼の足を見ると机からは脚が一本しか見えない。
「俺は紫。藤蔭紫。まぁ、呼びやすいように呼んでくれて構わんで。気付いたと思うけど、足一本しかないんだよね~。ま、気にせんといてな」
紫の訛っていたその声は優しく感じた。
俺はよろしく、と言ったがそんなよそよそしくすんな、と言われてしまった。紫とは、これからも仲良くやっていけるような、そんな気がした。
今日一日紫に教科書を見せてもらいながら1日を終えた。
やっと授業も終わり、一息ついた。授業なんて受けること自体初めてで、先生の説明について行くのが大変だった。しかし、授業内容は何故か頭にすんなりと入っていった。
寮に戻ろうと席を立った時、後ろから声をかけられた。
「よっ。俺は茅秋。部屋近いだろ?一緒に戻ろうぜ。」
赤く深い髪を長く伸ばし、ゆるく一つにまとめている。左側にたくさんピアスをあけ、ガタイのいい身体から、威圧感がすごい。
「ああ、もちろん」
“一緒に戻ろう”なんて言葉を貰ったのはいつぶりだろう。久しぶりに聞いたその言葉に胸が熱くなった。
「なぁ、お前学年で何て呼ばれてるか知ってるか?」
「俺?知らねぇ。」
俺がこの学園に入った時に流れた噂らしい。俺はあの戦争が原因でこの学園に入った。つまり、戦争での俺の戦果を知っている奴がいるわけで。俺が敵をなぎ倒し、敵の討伐数がぶっちぎりの1位だったとかいう黒歴史は学園全体に知れ渡ってしまっていた。
そして最悪なことに。この学園の制度として、一番強い奴が生徒会長となる。つまり、俺は自分の知らぬ間に生徒会長に任命されてしまっていた。
「“不死身の毒龍”だってさ。めっちゃ厨二くさくねぇー?」
「“毒龍”はやめてくれよ…」
“毒龍”それは、俺がスラムで暮らしていた時からの通り名だ。殺しの依頼を受けたら百発百中で暗殺を成功させた。俺とすれ違えば死んだことに気付かないまま命を落とす。正面切ってのスラムでの争い事でも負けたことは無かった。そのせいで俺の存在は都市伝説と化したことまであった。誰も俺の本名は知らない。自分でさえも知らない。もう本名など忘れてしまっていた。そしていつしか、毒龍と呼ばれるようになっていた。
「毒龍は昔から呼ばれてたけど…なんで“不死身”なんだ?」
「お前もあの戦争、出てただろ?あの戦争が終わった直後からお前の話は聞かなくなった。だから、皆お前は死んだもんだと思ってたんだよ。けどさぁこの学園来たらお前いるんだもん。俺だって不死身かよとか思ったもんね」
「俺だって人間だよ…流石に不死身はないわ」
そう、笑って話していた。こんな昔の話でさえ笑い飛ばせるなんて思いもしなかった。
その時だった。
「センパァァァァァァアイ!!」
「ゲッ…逃げるぞ茅秋」
「えっ…ええ!?」
突然奇声をあげて追いかけてきたのは弾丸入木。まさかあんな可愛い顔をした子が突然奇声をあげて追いかけてくるとは思わなかった。というよりかは何故今まで無理矢理にでもドアをこじ開けて入ってこなかったのか不思議なくらいの勢いだった。
「とりあえず俺の部屋に逃げよう」
「はぁっはぁっ…なんだよアイツ…」
「はぁーっあ"あ"知らねぇ…よ。こっちが聞きたいよ…」
とりあえず俺の部屋に来たはいいものの、人様に見せれるような部屋じゃない。部屋に大量にある電子機器の類はネトゲをしていた跡。部屋には脱ぎっぱなしの洋服が沢山積まれている。
「どうした。入んねぇの?」
「いや…入るよ…ただ、引かないでくれよな」
俺はそう言って渋々茅秋を部屋に入れた。
「アッハッハ!なにこれ!超ウケるんですけど!お前、部屋きったねぇな!」
「絶対言われると思った…だから引かないでっつったんだよ…」
茅秋は物珍しそうに俺の部屋を物色していた。
ドンドン!!
『せんぱぁい開けて下さいよー!!』
茅秋がアレコレしてるうちに弾丸入木が来てしまった。
そもそも俺は自室に来てどうするつもりだったんだ。鍵をこじ開けられたら隠れる場所なんてないだろうに。
俺があたふたしているとそれに気付いたのか茅秋が衝撃的発言をした。
「お前、逃げ道知らねぇの?ベッドの下にあんだろ?」
「はぁ?逃げ道?そんなの知らないけど…」
「まじかよ。お前肩書きは生徒会長だろ?生徒会長の部屋のベッドの下には逃げ道があるって話聞いたことあるぞ?」
そう言うと茅秋はベッドをずらし始めた。
ベッドがずらされ露わになった床にはRPGとかにありそうな“いかにも”な扉だった。床と同じ木製のその扉は一部が凹んでいた。おそらく取っ手として使っていたのだろう。
俺達は扉を開き真っ暗な闇の中に入っていった。
02話 4月ページへ 04話
bottom of page