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​02話 願望

    「そういや何で生き返ってるんだ?お前は一度死んだよな…?」

    こいつ…撓はあの戦争で死んだ。死んだ人間が生き返るなんて話、今まで聞いたことがない。
    じゃあ何で?何でシオリはここにいる。もちろん、会えたのは嬉しい。嬉しくないわけがない。
    「それはナイショ♪それよりさ葵のためにしたいことがあるんだよね!どうせ、ずっと部屋に篭ってたんでしょう?」

    図星だ。何も言い返せない。
    俺は撓に言われるがままに着いていった。



    部屋を出ると、人だかりができていた。誰だろう、と思っていたが撓と仲良さそうに話しているからきっと同級生なのだろう。友達と話している撓を見ていると何故だか心が安らいだ。

    「先輩!!出てきてくれたんですね~。ってか、コイツいきなり先輩の部屋に入っていきましたけど。誰なんです?」

    紫の髪の子が話しかけてきた。話しかけてくれたのは嬉しかったが、誰だかわからなかったのには申し訳ない気持ちが生まれた。
    「ごめん、誰?」
    「やだなぁ、3年の弾丸入木或賀ですよ!」
    弾丸入木…なんか聞いたことのある名前だった。
    「ほらぁ、毎日先輩に手紙あげたでしょ?それ僕です。」
    ああ、あいつか、と思う節があった。

    俺が学園にはいってから何年か経ったある日のことだった。ふとドアの方を見ると小さな紙切れが挟まっていた。それは俺に宛てた手紙だった。
    内容は大したことのない世間話。とても男子とは思えない可愛い字で一生懸命書いてあるもんだから笑ってしまったこともあった。
    その手紙は毎日欠かさずにドアに挟まっていた。こんなどうしようもない俺に構ってくれるなんてどんな子なんだろう。と、興味を持ったこともあった。もし会ってしまったらまた俺が傷付けてしまうかもしれない。そう思うと自分の足を動かすんことが出来なかった。

    実際に本人を見てみると予想通り可愛い子だった。体つきを見れば男の子なのだが、顔は女の子にしか見えなかった。
    白い肌に映える涙ボクロ。ちらっと見える金のピアスは少し大人びて見えた。
    「手紙、君だったんだね。ありがとう」
    「僕、先輩に会えて嬉しいです!お話する機会があったらゆっくりお話しましょーね」
    そう言うと彼、弾丸入木は駆けて行った。

    「あーおい。話は終わった?」
    「ごめん。でもお前も友達と話してただろ?」
    「すぐ終わったもん!」
    「ごめんな、待たせて」
    「許す!」
    周りには誰もいなくなっていた。撓が“したいことがある”とか言ってたからその為にみんなを帰らせたのだろう。
    「ところで、話ってなんだ?」
    「ねぇ、葵はさ。教室に行って勉強したいとか思ったこと、ある?」
    「それは……」
    撓が持ち出してきた話は俺のクラス復帰の話だった。学園長に言ったら戻してもらえるかもしれない。この年は“トクベツな年”だから学年は違うけど僕と一緒に勉強できるかもよ、ということだった。
    確に、クラスに行ってみたい、と思ったことはあった。でも今更行っても馴染めるのか、ちゃんと学生ができるのか。不安が積もるばかりであと1歩の行動に移すことが出来なかった。

    「葵の、本心を聞かせて」
    「俺は……みんなと、教室で、勉強がしたい」

    俺が答えたのにも関わらず撓は下を向き、沈黙の時間が流れた。
    「___そうだよね!よかったぁ~。僕の努力が無駄にならなくて!じゃあ、また新学期にね♪」

    そう、意味深な言葉を残し撓は駆けてどこか行ってしまった。
    おいてけぼりにされた俺は静かに自室のドアを開けベッドに潜り込んだ。
 
 
 
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