01話 再会
あれから5年が経った。俺は撓が呟いたあの言葉を忘れずに今も待ち続けている。
また会えるかもしれない少しの可能性に賭けている。今もまだ"外"は戦争をしてるのではないか。もしかしたら撓がまだ戦っているかもしれない。
そんなことある訳がないのに、そう思って"外"に出ようとした事もあった。しかし、体が言うことを聞かず恐怖に駆られ嘔吐してしまった。ある日一度だけ外に出られたことがあった。しかし、外には結界が張ってあって敷地の外には出ることができなかった。
もし外に出て撓に会ったら何て言うつもりだった?久し振り?ごめんね?また会えて嬉しい?…違う。俺には撓に声を掛ける資格なんてない。ましてや会うことなんて……許されない。そんな烏滸がましいことできやしない。
だから俺は万が一でも撓に会わないように5年前のあの日から通い出したこの学校、この部屋から一歩もでてない。ほんとは外に出たい。でも、外に出るのが怖いんだ。また誰かを傷つけてしまうのではないか…。傷付けてしまったらきっと今度こそ自分は自分でいられなくなってしまうかもしれない。
そして明日からは最終学年の6年生。高校を卒業しても付属の大学には行けるが大学生は他の生徒との接触が全くないと言う。大学に入ってしまえば外との関わりをシャットダウンされてしまう。
つまり俺に残された撓に会える期間は後1年。此処にいれば撓にまた会えるんじゃないか。なんて思ってたけど時間はない。それに…撓は俺を生かしてくれるために自分の命を断ったんだ。もう、会えるわけがない…。
でも、もし1つだけ願いが叶うなら撓に会ってあのときに言えなかった言葉を言いたいなぁ……。
“ありがとう"
そう、ただ一言だけ、伝えたかった。
そんな呑気なことを考えている時だった。ドアの外からカツ、カツ…と誰かが歩いてくる音がする。その音はだんだん近くなり、俺の部屋の前で音は止まった。そして、勢いよくドアが開いた。
「うわぁぁあっ」
突然開いたドアに頭が追いつかなかった。ドアを開けたそいつは遠慮などせず、ズカズカと部屋に入ってくる。俺が今いる場所は部屋にあるドアを開けたところにある奥の部屋だ。
足音は止まることなく、またドアの前で止まった。
「もしもーし、いますかぁ~」
どこか、懐かしい声のように聞こえた。しかし俺はそんなことを考える暇もなく、ただ隠れるように黙っていた。
見つかりたくない。今は、ただ大人しく、誰にも迷惑をかけずに過ごしていたいんだ。
そいつはドアを開けない。さっきは勢いよく開けたのに、今は何故だかドアの前にずっと立っている。
俺は恐怖に怯えた。こいつは俺がここにいることをわかっている。わかっている上で様子をうかがっているんだ。
そんな俺の気持ちなんててくれるはずもなく、ドアは開いた。
突然開かれたドアにびっくりして息を飲んでしまった。
「うっ…げほっ…」
「うわわ、ごめん、葵。大丈夫?」
俺は回らない頭を使って考えた。
今、こいつはなんて言った?葵、って。俺の名前。
俺はこの学校に友人などいないのだから、名前を知っている人なんているわけがない。
まさか、そんなことある訳がないと思いながらも俺は呼吸を整え、ゆっくりと顔を上げた。
そして、そこにいたのは。
「やぁ、久しぶり~」
「し、おり…?」
「そうだよ?やだなぁ、まさか僕のこと忘れたとか言わせないよ?」
なんで…なんで…?撓は俺があの日殺してしまったじゃないか。
信じられない気持ちと嬉しい気持ちがごっちゃになって。
もう永遠に会うことのできないと、会うことを諦めていた大切な人。その人が目の前にいる。
俺は思わず抱きついた。
「うっ…うぇぇぇん」
「うわぁ~葵、でかくなったね。もう高校3年生なんだから、泣いたらかっこ悪いよ?」
そんな事言われなくても分かってる。それでも、俺は泣くことをやめられなかった。何年も、何年も。諦めずに待ち続けていた愛おしい人。その人が今目の前にいるんだ。こんなの泣くしかないじゃないか。
俺はしおりと会えなかった5年分の感情を込めて言った。
「おかえり、撓」
「ただいま、葵」
これは彼の白須葵という一人の人間の人生において最期の涙となったというのはまだ誰も知らない話。